WEBライターの本田もみじです。
私は自分の肩書にあえて「WEB」とつけていますが、それには理由があります。
いや、たいそうな理由ではありません。
お引き受けするお仕事の99%が、WEB上に掲載される文章だからです。
そのため、取材経験がたいしてありません。
これを雑誌などの紙媒体の方にお伝えすると「別世界!?」な顔をされますが、コンテンツマーケティングのお仕事や、オウンドメディアの記事を中心に受注していると、そうそう取材は発生しません。
しかしプロライターを名乗る以上、取材のイロハを知らずに逃げ切ることはできまい…
いざ取材のお仕事を引き受けたとき、いい歳で大失敗をするのもイヤだしなあ…
そう考え、ちょっとズルをすることにしました。
そう。取材のプロ、プロ中のプロ、めちゃくちゃ取材をしまくり、素晴らしいお仕事をされている先輩ライターから現場のノウハウをいただいてしまおう!
ということで、取材ののコツと、プロライターとしての心構えを、徹底的にレクチャーしてもらいました。
本田の頼みを快く引き受けてくださったのは、
京都在住のベテランライター 郡 麻江さん。
お読みいただいたら、いかに取材経験が豊富で、また真摯に「書くこと・伝えること」に向き合っておられるかを感じ取っていただけるはずです。
ちなみにこの記事の1から8までの本文は、ご本人の文章で掲載しています。
自己紹介をお願いします
わたしは、出版社や編集プロダクションの勤務を経て、フリーランスのライターとして独立しました。
京都在住の雑誌ライターとして、約20年、続けています。
京都ということで、大半は京都の人、モノ、コトをテーマに書いています。
「春の京都」「秋の京都」など、観光、食、店、人、モノなど、雑誌のテーマには事欠かない町ですから、いわゆる京都モノに関して、ほとんどのジャンルを網羅してきました。
特に、伝統工芸や伝統芸能、茶の湯、華道や香道、寺社仏閣に関する取材が多いのも京都の特徴と言えるかもしれません。
個人的には、最近は古墳をテーマにした書籍の執筆をしたことで、古墳や歴史ものの仕事が増えています。もう一つは漢方オタクであり、漢方ライターとしても時々書いています。
プロライターって、何?
プロのライターとは何か?
というと、個人的な考えですが、特に雑誌のライターについては、受注制作をしている人、ということではないかと思います。
出版社なり企業なりのクライアントがいて、そこからの発注があって、取材に出かけて書く、そしてそこに対価として支払いがある、のが、商業ベースのライターといえるでしょう。
ただ、商業ベースであってももちろん、そこには個々のライターの表現力、個性、世界観が必要となります。
それが、その人の仕事の魅力や特徴となり、その世界観をみて、この記事はこのライターに書いて欲しいという、編集者のニーズにつながっていくので、独自の表現力や得意テーマを持っている、というのは、ライターとして強い味方になるはずです。
雑誌取材の仕事の流れを教えてください
それでは、月刊誌を例にとってご説明しましょう。
まず、出版社の編集担当から〇月号で〇〇特集があるので取材お願いしたいという依頼がきます。スケジュールが合えば、基本的にお引き受けすることになります。
その後、企画概要やラフデザインなどの具体的な資料をもとに、編集者と詳細な打ち合わせをします。遠方の場合は、電話とメールで、内容を詰めていきます。同時にカメラマンにも、取材意図や撮影のポイントなどの指示がいきます。
取材アポイントも自力で取る
関西のライターの場合、東京の出版社からの仕事をするとき、必ずしも編集者が同行しないこともあり、ライターとカメラマンだけで取材をすることも少なくありません。
その際、ライターが編集者の役割を果たさなくてはいけないケースもあります。
その後、実際に取材先への取材アポイントを取ります。
アポイントは編集部サイドで取る場合と、ライターが取る場合とがあります。アポイントは、先方に本誌や企画書を送り、企画趣旨を説明して、その内容を了解してもらえれば、取材オーケーとなります。
スケジュール調整が取材成功のカギ
そこでスケジュール調整をして取材日を決定します。
料理関係の店の場合は、ランチタイムとディナーの間、15:00〜17:00まで、ホテルや宿ならチェックアウトとチェックインの間で取材をすることが多く、担当数が多いと、限られた時間内でのスケジュール調整に苦労することもあります。
無理なく、無駄なく、美しくアポイントが収まったときは、すっきりとした、やりきった感があります(笑)。
この場合の「無理なく」というのは、取材、撮影をある程度ゆとりをもってできる上に、移動時間も無理なくとれる、ということ。場合によっては急ぎで次の取材先に向かうことも少なくないので、アポイント時に「時間は多少前後するかもしれません」ということを伝えておくとベターです。
覚えておきたい取材の心得① 取材意図をしっかり理解する
取材とは、媒体になにかを書くための素材を集めること。
その中にインタビューも含まれるように思います。
インタビューの場合は特定の人物と相対するかたちで、1〜2時間程度、その人の話を聴くというイメージを個人的には持っています。
人を通じ、お店やモノに込められた思いを理解していく
わたしの場合ですと、京都という土地柄、伝統芸能、工芸関係の代々続いているという方のインタビューを長きにわたって続けてきていますが、そういうときは大体2時間程度、その方が代々継いできたこと、次世代に伝えていくこと、これからのことなど、大きな3本の柱でお話しを伺います。
では、人物インタビューと、店舗や雑貨などのモノ関係の取材とどうちがうか?というと、基本は同じです。
お店にしても料理にしてもモノにしても、そのお店の思いが必ずそこにあります。結局、「人」を通して、その店なり、モノなりを理解していくので、基本スタンスは同じとなるわけです。
思い込みで動くのはNG
では、実際に取材を始めるにあたって、大事なことはなんでしょう。
まず、編集部の意図を誤解なく、正しく理解することが肝心です。自分の思い込みで動いてしまうと、あとで、どうしてこの項目を聞き出せなかったのか?ということが起きてしまいます。そのために打ち合わせや編集者への質問、確認をしっかり行う必要があります。
たとえば「温泉」がテーマの取材をするとしましょう。
その主体となるものが「宿」自体なのか、秘境の温泉ならその「地域」なのか、料理旅館なら「料理」なのか、名物女将がいれば「人」なのか。
何にスポットを当てるかで、取材の進め方や、書き方が異なってきます。
基本的には、温泉、宿、料理というのはセットで取材するべきことですが、「この特集テーマでは何を主眼においているのか?」をしっかり理解しないと、編集が求めるかたちに原稿を仕上げることは難しくなります。
温泉特集というものは、どの雑誌も必ず、取り上げるテーマですから、同じ温泉でも、その雑誌らしさをどう表すのか?が編集者の腕の見せどころとなります。
そして、編集者の細部のこだわりまでしっかり把握して、取材をし、編集に納得してもらえる原稿を書くことができるかどうかが、ライターの腕の見せどころとなるわけです。
これは温泉特集に限らず、どんなテーマでも同じことです。
覚えておきたい取材の心得② 2~3のことを書くために10のことを聞く
あくまでわたしの場合ですが、たとえば、10のことを聞いて、2〜3割程度のことを書く、というのを基本姿勢にしています。
その人なり、その店なり、料理なり、モノのことを書くとして、その背景やそこに至るまでの経緯など、2〜3のことを書くためには、10ぐらいの取材量があってこそ、深みのある、面白い記事が書けると思うからです。
限られた時間で、思いを引き出す醍醐味
しかし、インタビューなり、取材時間というのは限られています。
その中でいかに、効率よく、そして、気持ちよく、話していただけるか。無理やり聞き出すのでなく、この人にあれもこれも話したい、と思ってもらって、気分よく話してもらうことができれば、そのインタビューのひとときは、取材する方もされる方も、一つの目的に向かおうとする一体感に包まれた素晴らしいものになります。
それが出来た!と思ったときは、素晴らしい達成感があり、そこまで話してくれたインタビュイーの思いに応えるべく、今度はこちらがいい記事を書かなくては!となり、好循環が生まれます。これが仕事の醍醐味となっていくわけです。
取材の目的を忘れない
取材の目的とは何か?といえば、良い取材をして良い記事を書くことだけではありません。その向こうに、良い特集ページを作って、読者に伝えるべきことを伝えて、読んでくれた人に満足してもらうことが究極の目的となります。
仕事に悩んだり、なかなかいい文章が書けないとか、書くのが辛いとかいうスランプに陥ることは誰でもあることです。最終的に何を求めてこの仕事をするのか?という原点に戻ることも時に大切でしょう。
どうすれば、よい取材、インタビューができる?
当たり前のことですが、まずは準備第一!。
今はネットで調べることも多々ありますが、ネットの場合は出典に注意が必要です。オフィシャルなホームページなどは問題ありませんが、グルメウエブなど、個人的な感想を述べているものなどは、あくまで参照に留める程度に。
また、腕の良い編集さんなら、的確な資料をさまざまに提供してくれます。
とにかく、事前に、対象となる人物や店、モノの情報をできるだけ、頭に入れておくことが大事です。
次に、得た情報から、自分なりのインタビューを組み立てます。どんな記事にしたいか?どんな流れにしたいか?おおまかな、ゆるやかなイメージを持って臨むのもいいでしょう。
質問を決めて、質問①から順に質問項目をノートに書いておくことのも良いと思います。
雰囲気づくりも取材側の役目
ただし、それだけに縛られてはダメ。自由に柔軟に動ける部分も残しておくことが肝心です。いい意味での空白地帯をつくっておくことでインタビューの幅が、ぐっと広がります。
最初はこちらの手順に沿って質問を投げかけても、人間が相手ですから、だんだんと予定通りに取材が進まないことも多々あります。
そういうときに、予定通りに進まない!どうしよう!と焦ったり、順番通りに進まないといけない!と自分を縛ってしまうと、自分で自分の世界を狭めてしまいますし、相手も話しにくくなってしまいます。
相手が話しやすい、自然に話したくなる雰囲気や環境をつくるのも、取材する側の腕次第。 自由に話してもらいつつ、実はこちらがやんわりと流れをつくって、最終的な落とし所も探っていく。話が本題から外れすぎたら、「先ほどの質問に戻りますが…」と柔らかく軌道修正をする。そんな場面もよくあります。
経験を積むほどに、今、書いているようなことが、スムーズ、かつ自然にできるようになってきます。
覚えておきたい取材の心得③ 基本姿勢はリスペクトと謙虚さ
新人ライターの頃から、ずっと変わらずに持ち続けているのは「わたしは読者の代表です」という立ち位置です。
事前にいろいろなことを徹底的に調べたからといって、こちらは、そのコトやモノについては、「ズブの素人」であるということを忘れてはいけないと思うのです。
たとえば、仕事でもプライベートで食探訪を極めているライターがいるとしましょう。三つ星レストランからB級グルメまで、あちこちお店を食べ歩いたとしても、その人自身がレストランや割烹なり、自分がシェフや料理人であったり、自分の店を営んでいないのなら、あくまで相手はプロ、こちらは単なるお客、つまり素人、です。プロである相手へのリスペクトを絶対に忘れてはならないと思います。
そしてもう一つ。取材経験を積むと知識の量も幅も、驚くほど広がっていきます。かといって、全てを分かったつもりになって、知ったかぶりで話をすることは厳禁です。相手の気持ちを損ねたり、ときに、「知ったつもりで話をするな」と厳しい言葉を投げかけられることもあります。
「今日は読者代表のつもりで参りました。いろいろと教えてください」
と、心から思って話をすれば、大概の方は心を開いて柔軟に答えてくれます。
相手へのリスペクトを忘れず、謙虚たれ。
大げさでなく、それが、私が長年、この仕事を続けてきて、たどり着いた一つの結論、真理です。
やってはいけないことは、
「知ったつもりになる」
「知ったかぶりをする」
「相手への敬意を忘れる」
ことです。
知らない、わからないことがあれば、ええカッコをせず、「そのことは存じ上げないのですが、教えていただけますか?」とその場で謙虚に教えを請う勇気と潔さを持つことです。
わからないことは取材時に直接話を聞いて解消しておくことも、非常に重要です。生の声で、リアリティのある取材をすること。これに勝る情報収集はありません。
覚えておきたい取材の心得④ わたしの七つ道具
①手に合うペン
こればかりはいろいろ試すしかありません。資料を見ながらインタビューということもあるので、蛍光ペンと付箋紙もあるほうがベター。
②手に合うノート
私はルーズリーフタイプのノートを使っています。半分に折れて持ちやすいから。たとえば旅取材であちこち移動する時や、旅館やホテルなど館内を移動しながら取材するときに、さっと開いて書いて、さっと閉じて移動できるのは非常に便利です。
③A4サイズのクリアファイル
取材先からパンフレットなど資料をもらうことも多いので、ごっちゃにならないように2〜3枚用意しておきます。
④レコーダー
医療系など専門性の高い取材など、難易度の高い取材やロングインタビューには欠かせません。私はiPhoneのマイクを使用し、終わったら、自分のパソコンにすぐ転送します。
録音するときは、相手に最初に断りをいれて録音すること。
⑤資料
これは言わずものがな、です。行きの電車の中で資料を読んで最後まで確認することもあります。
⑥意外に忘れる、媒体の最新号
「今回はこの雑誌の取材で取材させていただきます」と最初に説明とスムーズに取材に入りやすいもの。基本は事前に出版社から送ってもらいますが、自分でも持参するとベター。
⑦マナーとスマイル
これは基本中の基本アイテム。
最初のご挨拶、名刺の交換など、まずは、所作を気持ちよく美しく。程よい緊張感と笑顔は取材のスムーズな導入に欠かせません。
「知ったかぶりをしない」、「相手へのリスペクト」とともに、マナーとスマイルの標準装備をぜひとも。
また、マナーの一環としてアフターフォローも大事なことです。
お礼のメールや、場合によっては葉書やカードなど、取材後のアフターフォローも忘れずに。
料理屋さんやレストランなら、プライベートでアフターに家族や友人と訪ねると、とても喜んでくれます。取材とは違う寛いだ雰囲気で、その店にリアルに触れる良い機会です。こういう経験の積み重ねが勉強にもなり、取材者として自分を育ててくれるのではないかなと思います。
最後に ライターとしての発信方法はさまざま
自らテーマを設定して書く発信型のブログライターの場合は、作家の範疇になるのではないか?と思いますが、そこは明確な線引きはできないかもしれません。
しっかりとしたテーマ、視点、魅力があって、多くのファン=読者を獲得すれば、そのブログはマスメディアの中の一つの媒体となります。そこに広告がつけば、収入を得られるライターとなるわけです。
その場合、雑誌のライターとのちがいは、ブログにおいては、広告主の要望や制約に縛られることなく、基本、以前とかわりなく自分の書きたいテーマで書けるということでしょう。
その人のカラーで書きたいことを書いた文章にファンがつき、そこに広告を出すわけですから、広告主もそのブログライターの個性を認めているということになるわけです。
しかし、ブログの世界でも、タイアップ記事(記事風にみせて、じつは広告主が買って制作するページ。ただし純粋な広告とちがって、その媒体の特性を生かした記事に仕立てたもの)の仕事もあると思うので、その場合は、広告主の意図に沿ったライティングになるとおもいます。
本田のまとめ
原稿を受領し、WEBで読みやすいようにまとめながら、「なんて的確で、思いやりのある文章だろう」と感動しました。大げさなことは何ひとつ書かれていないのに、インタビュアーとしての情熱と矜持、そしてモノづくりへの愛情が詰まっています。
自己完結ができるかわりに、ひとりよがりになりがちなWEBメディア。しかし、取材をして、誰かの思いを言語化するという仕事には、ひとりよがりになどなる隙などなく、いかに「限られた環境の中での、最上の仕事」という一点に集中できるか、ということが求められます。
取材のノウハウだけではなく、「プロライターとして対象にどう向き合うか」を考えさせてくれる、素晴らしいお話をありがとうございました。
郡さん、感謝です!