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数値を絶対視してはいけない

私は38年余り、病院の検査部門で仕事をしてきました。直接ではありませんでしたが、毎日患者さんが自分のすぐ近くにいる、そんな環境で仕事をしてきたのですが、患者の皆さんは意外なほど、自分の体のことについては関心がないように感じていました。

数年前にリタイアしてライターになりましたが、改めて周りの人を見まわすと今も同じ気持ちになります。そこでこの場を借りて、知っていたら得かなと思うようなことを紹介していくことにします。

さて、皆さんは自分の身体の調子が悪くなった場合、どこかの医療機関を受診することになりますよね。その時に、しばしば何か検査を行なうことになると思います。普通は臨床検査関係か、または放射線検査関係のどちらか、あるいは両方を行います。

そして検査のために採血を行うことも多いでしょう。これを称して「血液検査」と呼んでいます。いろいろな項目が一覧になった形で報告書が返ってくるのですが、書かれている内容は、そのほぼほとんどが数値。さて、これをどう読んでいけばよいのか…。

目次

数値をどのように捉えるか

数値が並んで書かれている報告書、それをただ見ているだけで何か緊張してしまいそうです。さて、ここに書かれている数値をどのように捉えて考えるか、一般の人にとっては、ここが難しいところ。私は書かれている数値を報告する側として仕事をしてきましたので、一つだけハッキリ言えることがあります。

数値で書かれているからといって、その数値を絶対視しないこと

いくら具体的だからといっても、この場合に限れば、数字に「絶対」ということはありません。デジタルで結果を表現していますが、測定している時の変化などはすべてアナログです。なぜなら、化学反応などは連続的な変化を起こすものだからです。

また、個数を数えるような場合(例えば赤血球数など)でも、サイズが非常に小さいものが多く、しかも数が多い。そうなると、当然ですが誤差を含んできます。

つまり、いくら具体的な数値で表現されていても、必ずそこには(わずかではありますが)誤差を含んでいることを知っておいてください。

正確と精密、どう考えればよい?

わずかであっても誤差を含んでいるということを言い換えると、数値であっても多少の幅をもって見た方が良いという意味です。

例えば100という数値が書かれていたとしても、それは本当は99かも知れない、101かも知れない、その程度の幅を想定したうえでその数値を見て判断してくださいという事なんです。これには「正確」という言葉と「精密」という言葉の2つが深く関わっています。この2つ、ざっくりいうと、こんな感じです。

正確とは、100あるモノは100、200あるモノは200と結果をかえすこと。

精密とは、何度繰り返して測定しても同じ結果になること。

既知の濃度が100と分かっているサンプルを測定した時に、測定結果が100であれば、この結果は正確であると判断します。仮に結果が90だった場合、正確さでは100の結果を出した測定方法よりも劣ることになります。

しかし、何度も測定し直しても結果が90であれば、この測定方法は精密であると判断します。この場合、なぜ100ではなくて90になったか、その原因を調べる必要はありますが、正確な結果を求めるのであれば10/9を乗じればよいので、対処はしやすくなります。

話をもう一つ、既知の濃度が100に対して最初の測定結果が90だったとします。何度も測定した結果の平均値が100だったとすると、これはバラツキが大きい測定方法という評価になります。5回測定して、Aの方法では結果が(90、100、110、95、105)だった、Bの方法では(99、100、100、101、100)だった場合、どちらも平均値は100ですが、Aの方が明らかにバラツキが大きいと判断できます。この結果を見た限りでは、Aの方法を採用するわけにはいけませんね。

毎回このような確認を行うわけにはいきませんので、どのような方法であったとしても、その測定方法を導入する時に、最初にこういった確認を行ないます。そのうえで、毎回定期的に既知濃度のサンプルを混ぜて、どのような結果が出ているかを確認しながら、サンプルの測定を行ないます。

流れを読むことが大事

話はかわりますが、昔の占い師さんは「黙って座ればピタリと当たる」がキャッチコピーでしたが、まあ誰も信じなかったでしょう。

これは医療機関でも同じです。あなたが診察室で医師の前に座ったとしても、黙って座ったからといって医師が何もかもお見通しなんていうことはありません。その診療科を受診したということで、いくらか病名の範囲は絞られるかもしれませんが。

患者の立場で、どんな症状だとか、いつ頃からそうなったとか、ちゃんと医師に伝えないと、医師も何をすればよいか分かりません。患者さんが症状などを訴える場合、その表現が伝わりやすいかどうか、診察をする医師にとって分かりやすいかどうか、この辺りは大事ですね。そして、医師が想定した病名に対しての検査が行われます。

さて、血液検査の結果が出揃ったとします。その報告された数値がすべて基準値の範囲内だったとして、ホッとしてよいでしょうか。まあ、とりあえず大きな心配は無さそうです。ただ、初めてその医療機関を受診したという場合は注意が必要です。普段のその人の状態が分からないからです。その人の普段の状態を推測するためには過去の数値の結果が参考になりますので、そういったデータが有るか無いかは重要です。

過去から現在に至る数値の流れを見ながら、今回の数値をどのように捉えたらよいのか、それを考えながら主治医は検査結果を読んでいます。ですから、初回は主治医もあまりハッキリ「こうだ、こういったことが考えられる」とは言わないかもしれません。それほど、過去のデータ、つまり数値は大切なんです。ドクターショッピングと呼ばれるような受診の仕方は、しない方がよいでしょうね。

こんなことも知っておいて下さい

もう一つ、時々「検査をして異常が無かったのであれば、それは不必要だったのではないか」と言われることがあります。しかし、検査を行なったからこそ異常値では無かったという事が分かる、つまり確認ができるのです。不必要ではありません。むしろ、不必要と思って検査をしなかったために何か見落としがあった場合を考えると、その方が大変です。

カルテの記録は論理的に書かなければいけません。もし、そこに医師の思い込みや先入観があれば、見落としにつながる危険性も出て来ます。患者さんにとっては面倒に感じるかもしれませんが、その都度確認を行なって思い込みの危険を防ぐ、そのための必要な処置であることを知っておいてください。

まとめ

基準値の範囲が100未満だったとして、99ならセーフで100ならアウトでしょうか。数値で表現されていると、どうしてもその数値を絶対視してしまい勝ちです。しかし、ここに多少なりとも誤差を含んでいると考えれば、99も100もさほど変わるものではないと思えるでしょう。

いくら数値で表現されていたとしても、人間がもつ側面の一つを表現しているだけですから、絶対という事はありません。多少の幅をもって見てください。大体このくらいの状態なんだな、前の結果と比べてこの数値は落ち着いているみたいだな、そんな読み方をしていただいて、結果をご自分の健康管理に役立ててください。

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