大阪ものかき隊に入隊したのは2025年4月。それからの3ヶ月間、私は生まれて初めて「書く仕事」というものに現実的に向き合った。
学生時代から「書く仕事」がしたいと考えていた。高校生の頃、バブル崩壊後の世の中で人生を軌道修正しながら生きる人の姿を雑誌のルポで読んで、人生には柔軟さと逞しさが必要なのだと感じた。大学生の頃、オリンピック選手が決勝戦の前夜、のしかかる重圧や不安を乗り越えて自分を奮い立たせる姿を新聞記事で読んで、挑戦することの美しさに心が震えた。
振り返ってみると、自分は文章を通じて人の内面を知り、自分に置き換えることで心の中を言語化し、次の一歩を踏み出す勇気を得てきたように思う。そして自分も「書くこと」を通じて誰かの役に立ちたいと考えるようになった。
でも大学卒業後に進んだ道は一般企業だった。就職活動では何十社かの新聞社や通信社などを受験したがどれも不合格。「書きたい」という意欲が空回りしていたのだろう。面接官に「何が書きたいのか」と聞かれて言葉に詰まった。
それから26年。縁あって人事という仕事を続ける中で、働く人の多様な価値観やキャリアにかかわる機会をいただいている。仕事を通じてDiversity, Equity & Inclusion という言葉に出会い、深く感銘を受けた。これまでの学びを体系的に整理したいと考えて取得したキャリアコンサルティングの資格を活用しながら、傾聴を通じて一人ひとりの内面に触れる機会も得た。
性別や年齢、国籍、価値観などさまざまな個性にかかわらず誰もが挑戦できる、そんな「多様性あふれる社会づくり」に文章を書くことで貢献したい。自分のWHYを言語化してみると、こんな言葉で表現できると思うようになった。
でもどうやって「書く仕事」ができるのだろう。そんな時に偶然見つけたのが「大阪ものかき隊」のホームページだった。そこではプロのライターの方々が集い、互いに切磋琢磨しながら仕事を高め合っているようだ。こういう場所に身を置けば、自分の「書きたい」という意欲を具体的な形にできるのではないだろうか。2025年4月、そんな期待をもって私は大阪ものかき隊に入隊した。
この3ヶ月、特に印象に残ったことは3つある。
オンラインジム
入隊するとすぐにSlackというコミュニケーションツールに参加することになる。そこでは、「交流チャンネル」、「マーケ部」、「ライター相談室」などさまざまなチャネルがあって、日々の仕事の情報や学びの共有、講座の企画などが展開されている。
「オンラインジム」もその一つだ。これは毎月それぞれの隊員が書いた文章の「文字数」と制作物(公開可能なもののみ)を互いに報告するというもの。とてもシンプルだが自分にとって非常に新鮮な活動だ。
マラソンランナーは毎月の走行距離やタイムを把握し、伸ばしながら走る力を向上させていく。同じようにライターは書いた文章の文字数や掛けた時間を記録することで、書く力を伸ばす。書くことを仕事にする以上、質と量、そして時間のバランス感覚は必須なのだと気づかされた。
同期の仲間
4月から入隊した第18期の同期の仲間は私を含めて5人。すでにライターの仕事を本業または副業で実践されている方ばかりだ。
毎日のように記事を量産し、世の中に公開されていく人。これまでの経験を活かして専門性の高い領域で記事を書いている人。副業でありながらアクティブに行動し、インタビューを通じて得られた学びを発信している人。すでに行動を起こしている方々と自分のレベルとのギャップを目の当たりにして落ち込むこともあるが、それこそが今の自分に必要な刺激でもあるといえる。
入隊後の講座や交流会を通じて一人ひとりの価値観やバックグラウンドを知るようになると、noteなどで公開されている文章への関心や共感も高まった。文章を書く人と直接交流すると、書くことへの向き合い方や動機、意欲の持ち方はそれぞれであることが分かる。改めて自分はどのような心構えで文章を書こうとしているのか、その方向性を考える機会にもなった。
同期のメンバーは偶然にも同じ関西圏に住んでいるとのことでリアルな懇親の場も企画されている。これからのリアル&オンラインの交流が楽しみだ。
基礎講座
入隊して3ヶ月はライターの基礎講座を受けることになる。「マインドセット」「マーケティング」「目標とロードマップ」からなる3回の講座の目的は、「書くこと」のスキルを磨くことではない。自分はどんなライターなのか、何をミッションとして何を書いていくのかを自らの言葉で語り、行動できるようになることが目的とされている。
それはまさしく私が26年前に面接官に尋ねられ、答えられなかった問いでもあった。1回目の講座では、自分のライターとしてのタイプを、得意なことや自然とできていることをベースに見極めて言語化した。2回目の講座では、ターゲットとなる読者がどのような課題に向き合っているのか、そこにどんなソリューションを提供するのかという観点でマーケティングの概念を理解し、文章を書くプロセスの中に落とし込むことを教わった。そうして最後に、これからの目標とロードマップを作成した。
大阪ものかき隊の隊長の本田さんの巧みなファシリテーションと問いかけを通じて、自分はこの26年間を駆け足でめぐっているような気持ちになった。そうすると、なぜ今、もう一度「書くこと」に挑戦したいと思ったのかについても気づいた。それは、人生の半ばを過ぎて、これまでの学びや経験を何かの形で社会に還元したいという想いが強くなったということだ。
「未来の社会のために、文章を通じて、多様性の強さを伝える」
これは現時点でのライターとしての自分のミッションだ。26年を振り返りながら改めて言語化するとこのような言葉になった。働き方や生き方に悩みを持つ人たちに向けて、言葉を通じて多様性の価値や柔軟な選択肢の存在を届けられたらと思う。
人生100年時代と言われて久しい。社会はこれからも変化し、自分も今までにない経験を重ねていくだろう。これから出会う人や出来事に丁寧に向き合い、柔軟で逞しく人生を歩みながらライターとしての活動を進めていきたい。