コワーキングスペースマニアが読み解くコワーキングスペース
「今までのコワーキングスペースとは違うONtheUMEDA解体新書 その2」
【完全クローズでもないが、完全オープンでもない】
ONthe UMEDAの1Fの真ん中から奥の方は、また趣が違う。植物が垂れ、まるで月桂樹の冠をかぶったかのような円形のカウンターが目立つ。その周りには、バーなどにあるような丈の高い椅子と机が8セット並べられている。
円形のカウンターには、内側にドリンクマシーンやグラス、外側にカウンターと本棚がある。カウンターには20cmほどの仕切りがついており、内側でドリンクを取っていてもカウンターに居る人が気にならない。
この仕切りも完全に視界を遮るのではない。座敷にある衝立のように、見ようと思えば見ることができるが視線を落とせば、気にならないような仕掛けになっている。
完全にクローズでもない、完全にオープンでもない。微妙な距離感が心地いい。
【直流を交流にする仕組み】
本棚にはスタッフや会員のおすすめの本がコメント共に置かれていて、自由に本を手に取ることもできる。いわば、スタッフや会員自身の興味関心を“見せて”いる。しかもその本棚で「見せる人」は、月ごとに変わるのだ。
コワーキングスペースの一つの目的に交流がある。多くの場合その仕掛けとして、会員紹介ボードやノートなどが用意されている。それは、自分が求めているもの(例 ITスキルを上げたい)があれば、それを得意とする人とつながることができるといういわばone way(直流)なものだ。
ONthe UMEDAの本棚は、もう少しゆるい。自分のおすすめ本を示すことで、その本に興味を持つ人、共感する人がいるだろう。本が媒介役となって、その本でつながった人同士が、two way(交流)で繋がる可能性がある。しかもこの本棚のアイデアは、利用者からの発案であることもにも驚かされる。
【アルコールだけではない、ちょっとした仕掛け】
円形カウンターの奥には、ミニキッチン付きのカウンターがある。ここでは、様々な交流が生まれるように、18時からの2時間「ONthe BAR」が開催されている。バーカウンターでお酒やジュースを飲みながら、BARに来た人同士が、語り合う空間が用意されている。
アルコールを提供するコワーキングスペースはある。アルコールがコミュニケーションを活発にするという。アルコールがコミュニケーションを活発にするということについて異論はない。
一般的には、代金を払って(フリーの場合も!)、冷蔵庫から取るものや、ビールサーバーがあったりする。ONthe UMEDAのように、スタッフが缶を手渡しで提供することはない。実はここが大きなポイントなのだ。
アルコールがあれば交流が進むというものではない。アルコールを飲めば急に周りに話しかけ始めるものでもないからだ。
特に最初のきっかけなどが難しい。そこにスタッフがいて交流のきっかけを提供することができれば、ありがたい。人をうまくつないでいくことが交流には必要なのである。
【見渡せばアイデアがザックザク】
ONthe UMEDAを特徴づけているものの一つにパンフレットにも掲載されていない、ロフトがある。靴を脱いで、裏手の階段を上がると、立つと頭を打ってしまう低い天井のロフトである。
高さ30cmほどの丸い机が2つ。その机をそれぞれ取り巻くように3つの丸い座布団がある。ここに座ると、1階の一番奥にあるロフト席は1階全体を見渡すことができる。この“開放”感はなかなか味わえないものである。
アイデアを出すためには、自分を様々な呪縛から解き放つことが重要だ。この入り口まで見渡せる開放感は、解き放つことにつながるのではないか。
実際、このロフトで開催された連歌のイベントに出席した時、自分でもビックリするぐらい次から次へと句が出て来た。
実際、この文章もロフトで書いている。サクサク書けている。
【交流に必要なものは】
一般的にコワーキングスペースが囲おうとするのに対して、ONthe UMEDAは開こうとするということを前回指摘した。
ここでも、ロフトで見渡すという開放感や本棚を使った自己開示という方法でオープンマインドを押し付けることなく、自然に、さり気に提供してくれているのである。
交流を謳い文句にしながら、囲おうとすると、密度は濃いかもしれないが、煮詰まる関係になってしまう恐れがある。せっかくの交流が「流れなくなる」可能性がある。交流を標榜するなら、オープンにする必要がある。ONthe UMEDAの心意気を感じたのであった。