こんにちは。防災ライターの南部優子です。
今回は、少しまじめな話をいたします。
友人に起こった悲劇
まもなく梅雨入りになろうかという昼下がりのことでした。
遠方に住むフリーランスの友人から、久しぶりにLINEが来ました。
「なんか仕事ない?」
何があったのかびっくりして問うと、どうやら長く取引していた会社からさっぱり連絡が来なくなり、気になって問い合わせたら、もう頼む仕事はないからという突然の通告を受けて混乱しているとのこと。
友人は事情があって雇用からフリーの請負に変わり、もといた会社を主要な取引先としてきました。仕事ぶりが認められて継続した案件も抱えてきましたし、ずっと信頼関係を築いてきたと思っていたため、まさか年度が変わったとたんにすべて消えるとは思ってもいなかったそうです。
今年度は立ち上がりが遅いのかなあ?程度に考えて気軽に連絡したら、「外注はやめる方針になりました」と。事前通告がなかったので、何の準備もしておらず、あわてて伝手をたどって著者を思い出したそうです。
「それはたいへん。同じフリーランスどうし、精一杯の情報共有はするから!」と返信しつつ、なんとも言えない気持ちになるのを抑えきれませんでした。
「複業バンザイ」に騙されてはいけない
2019年4月から、働き方改革の関連法案が少しずつ施行されるようになりました。現在は大企業を中心として、残業時間の短縮や休日の取得、柔軟な勤務形態などが展開されていますが、順次、中小企業にも適用されていきます。
この流れを受け、本業を補助する形で収入を得る「副業」や、いくつもの業種・職種を並行してこなす「複業」が注目を浴びるようになってきました。
企業に従属する働き方ではなく、自由な個人としてさまざまな組織の中で能力を発揮する働き方が、新しい時代をつくるといわれています。
でも、ちょっと待ってほしい。そんなにすぐに社会って変わるものなのでしょうか。
個人が輝く働き方といえば、そりゃあ誰だって反対しないでしょう。
そんな会社、そんな社会を目指すのは良いに決まっています。
総論賛成・各論反対。これが現実です。業界のホンネに気をつけておかないと、甘い夢だけをみていたら網の隙間からこぼれ落ちて後悔の波にのまれてしまいます。
発注者側の「ホンネ」
雇うにしても外注にしても、お金を出す側からすれば、慈善事業ではないのですから、利益になることを優先するのは当然です。
ここから仕事を出す側のホンネが透けて見えます。
やっぱり、身持ちが固いほうがいい
着実に成果を回収するには、個人はリスクが高いといえます。1人の能力には限度がありますし、なにより病気や事故で突然成果が出せなくなったときの替えがききません。
大きな仕事になればなるほど着実な業務遂行を考えて、個人より組織として責任をもつところを優先します。実績を重視する大きな組織ほどこの傾向は強いといえるでしょう。
社会の貢献より会社の継続
たいていの会社には、存続に影響するくらい大きな取引先があります。その取引先の動向を気にし、優先するのは当然といえます。
たとえば、下請け・孫請けに丸投げして社会問題となった事件などが続くと、大きな企業や行政は、再委託の基準を厳しくし、個人への外注に神経質になってきます。
こうなると、下請け企業は、いくら実力ある個人がいても、取引先を説得してまで使うような冒険はしません。内部の人員で可能な範囲の「最高の布陣」を敷くほうがよほど楽ですから、外注はなくなってくるでしょう。
内部の整理は炎上のもと
無尽蔵に経営資金がある組織はまずないでしょう。どこかへ優先して手当するとすれば、お金をかけただけの成果がわかりやすいハード設備への投資になるのは否めません。
人員は育てる時間もお金もかかりますし、費用対効果もわかりにくいため、上手な投資が難しいのです。
こうして、年数が長い割に効率が悪い内部の人員がどんどんたまっていきます。でも一旦雇ったらよほどの理由がない限り切りすてると社会問題になってしまいます。
外部に出すほうが効率よく、上質な成果を出せるとわかっていても、内部を使うしかないという状況も、よくあることです。
働く側の「ホンネ」
一方で、働く側の心もちに課題がある場合も見受けられます。
安易な気持ちで仕事に臨んでいないか、無意識レベルも含め、働く側が陥りやすい「ホンネ」をみていきましょう。
仕事をもらいたい
取引にはどうしても「発注」「受注」の関係ができますから、仕事を受けるという感覚になるのは仕方ないことかもしれません。
でも、落ちてくるのを待って受けるのと、自分から取りにいくのとでは、大きく違ってきます。
「仕事をもらう」と表現したときには、与えられるのを待っている受け身の姿勢が感じられます。
この感覚でいる間は、発注者側にコントロールされてしまいやすく、思っているような仕事にはなりづらいでしょう。
教えや指示を受けたい
受け身な考え方は、仕事のこなし方にも現れます。
指示がはっきりしていないと動けない、具体的なやりかたを教えてくれないと効率が悪い、といった問題を指摘することがよくあります。
たしかに、まったく方向性も示さず発注したり、中途半端な指示内容にしておいて後から覆すような評価を出したりするのは論外ですから、こうした発注者に対しては毅然と交渉する必要があります。
ただ、少し気をつけたいのが交渉時の態度です。
指示をもらえるまで待っていないでしょうか。
指示や教えを受けなかったのをいいことに、自分からは何もしないままになっていないでしょうか。あるいは、指示が絶対だと他の可能性を排除するような雰囲気をつくっていないでしょうか。
これが積み重なると、仕事に柔軟性のない人や提案のできない人といった評価を受けてしまいかねません。
居心地よい仕事、ステップアップのための仕事をしたい
もうひとつ意識したいのが、「なんのために働き、どんな貢献ができるのか」という意識です。この意識が薄いと、発注側は貢献してくれる人財というより、飼っているだけの重りのように感じてしまいます。
たとえば、プロジェクト担当の居心地がよい、自己実現の場になる、自分のステップアップに最適といった理由から仕事を選ぶ場合です。たしかに大切な要素です。
ただ、それだけでは困るのです。
働く場は、組織を維持できるだけの利益を生み出すことを求められます。仕事として獲得する以上、組織の維持発展に結びつく目的や、貢献できる能力を明確にして関わる必要があります。
働く側も、発注側に都合よく依存していては、よい関係は育ちません。
働く場を真剣に考えてみる
では、どうしていけばよい仕事の関係を築くことができるのでしょうか。
その鍵を握るのは、両者がもつべき「働く場」の捉え方ではないかと思っています。
3つのタイプ別 働く側の心得
働く側としては、どんな働き方にしたいのか、目的を明確にして働く場に臨むことが重要です。
稼ぎや居心地、スタップアップといった優先度はもちつつ、自分の働き方を冷静に分析して働く場との相性を見極めていく必要があると思います。
働くタイプのヒントとなりそうな3つのタイプを以下に紹介します。
もちろん、ひとりの人間が単純にタイプ分けできるようなものではないでしょうが、自分の傾向をつかんでおいて働く場に応じて柔軟にタイプ分けし、自分の生き方と折り合いをつけることをおすすめします。
アートタイプ
自分のペースで自分のやりたいことを形にするアートタイプは、発注者との関係性がもっとも対等に出やすいタイプです。
いちばん気持ちよく仕事できるのは、自分の作品がそのままの形で認められ、お金になる状態ではないでしょうか。
このタイプはとにかく自分の実力を出す機会をつくって、自分から売り込むこと。仕事を受ける場合でも、常に能動的に提案する姿勢が高評価につながるはずです。いつか誰かが認めてお仕事をくれるだろうという感覚を捨てることが肝心です。
クリエイトタイプ
クリエイトタイプは、次々と仕事を創造していく点ではアートタイプと似ていますが、自己表現というより発注者やステークホルダーの課題解決につながるものを形にしていく色あいが濃くなります。このため発注者と受注者がより強く影響しあう関係性となります。
このタイプも待っているより自分で仕事をみつけることが重要です。むしろ、いろいろな人や組織と関わりあう中で自分から問題課題となるものを掘り起こし、仕事の場をつくりだすくらいの勢いで進んだほうがうまくいくかもしれません。
ジョブタイプ
オリジナルを生み出すより与えられた課題をこなしていくのが得意なジョブタイプは、他の2つのタイプより受け身にみえるかもしれません。
ですが、全員がゼロベースの仕事を担っても仕事になりませんよね。1を2に、2を4にと着実に積み上げるジョブタイプの能力は、アートタイプの発想やクリエイトタイプのアイデアを実現させる要ともいえます。
ジョブタイプこそ、積極的に場への貢献をアピールし、自分から仕事を取りに行ってはいかがでしょうか。
これからの「働く場」をつくるために必要な視点
働く場といっても企業とは限りません。誰かとコラボしたり、チームを組んだりするなかで場ができることも当然考えられます。
適切な人が集まり成果を出す場をつくるには、どのステークホルダーに対して何を提供するか、目的を明確にする必要があります。
すべてを追いかけても場は崩壊します。
金を生む場をつくるなら
事業を大きく発展させて収益を上げていきたいなら、信頼(実績)、資産(拠点、資金)、人員規模が他より抜きん出ている必要があります。
大量のジョブタイプと少数のクリエイトタイプを集め、徹底して内部統制します。中途半端に美しい事業方針より明確なしくみを構築する経営能力が試されるでしょう。
ジョブタイプは効率化できる水準までは教育が必要です。クリエイトタイプをつなぎとめるには、報奨などの対価を充実させるか、一定程度外とのつながりを認め、自由度を上げることで場への帰属意識を強化する必要があります。
人をひきつける場をつくるなら
人のネットワークで事業展開を目指すなら、人脈による情報の広がりが鍵となります。ネットワーク発達させるしくみと経営能力、人をつなぐ求心力が必要です。
場の目的に少しでもかかるクリエイトタイプ、アートタイプと多くつながり、仕事をつくりあいます。自ら動かずに仕事をもらおうとする受け身の人は自然と淘汰されていくでしょう。
場が回すのは金より情報。
徹底して情報を共有し、対等の関係で仕事をつくりあうことにより、人が自ら強くなり、場が育っていきます。
スキルで勝負する場をつくるなら
特別な技術や技能で打ってでる場は、集まる人は狭くて深くなります。
働く目的が一致するクリエイトタイプを引き寄せられる魅力のある現場や、スキルのアピールが必要でしょう。
また、大化けするかもしれないアートタイプをひきつけておける資金、切磋琢磨できる環境や、アイデアを形にして事業を維持できるジョブタイプの確保も重要です。
令和は「二極化時代」の幕開けになる
大昔に目を転じれば、農耕時代はごく小さなコミュニティで経済が完結し、個人間の取引中心でした。
その後産業が発達し、企業という組織規模で分業が進み、経済の範囲は広くなりました。
そして今、少子化による人手不足やICTの発達による情報ネットワークの発達により、ふたたび個人間の取引が活発になり、小さなコミュニティでの経済生活が成立しはじめています。ただ、小さいとはいっても、つながりそのものは全世界での広がりです。
一方で、企業単位の経済活動は、GAFAのような巨大組織の影響を受けながらますます統合化され、しくみが強化されていくようになるでしょう。
人生100年時代と言われ、終身雇用の世の中ではなくなったといわれていますが、現実の日本はまだ高度成長期のころの幻影が残ったままの社会構造で、働く思考も追いついていません。
不安定な状況のまま、既存の働き方が足元から崩れ、発注側も働く側も、二極化が進んでいく可能性があります。
仕事に対し、働く意識と場をつくる意識のどちらについても、目的を見失わず、どこを向いて仕事するのかをはっきりさせる生き方が問われているように思えてなりません。
友人に起こった問題は、決して対岸の火事ではないのです。
フリーランスのみなさん、賢く強く生き抜きましょう!