11月11日。
京都の二条城正面にある、ANAクラウンホテルで開催された「イタリアンの調べ」というイベントを取材してきました。
主催のACCIとは「ASSOCIAZIONE CUOCHI CUCINA ITALIANA」(日本イタリア料理協会)のことで、本日のメインゲストのひとりである落合務シェフが会長をされていて、全国で約240名のシェフが会員になっている組織です。今年が創設30年の節目でもあり、その記念行事でした。
京都には、ACCIに先駆けて2年早くから「京都イタリア料理研究会」と言うシェフの集まりがありましたので、今回共同で企画されたのでした。
私はメインゲストのもう一人である、笹島保弘シェフと京都の同じ店で働いていたことがあり、当時は私も京都イタリア料理研究会の会員でもありましたので、そんな縁で、取材と言うより「遊びにおいでよ」というノリで呼んでいただきました。
久しぶりのキッチンの空気
約束の11時ごろにホテルの大宴会場の入り口で笹島シェフと落ち合い、裏側パントリーからキッチンへ入りました。
私にとっては約5年ぶりのキッチンの雰囲気です。
懐かしい匂いが立ち込めています。肉が焼きあがる香ばしさ。ハーブの香り。魚を蒸したような匂いもする。キッチンには様々な美味しい香りが満ち溢れていました。
ホテルの広いキッチンを眺めると、数名のシェフが、大声で叫んで飛ばす指示に多くのシェフたちが従っています。デシャップ台(注1)に皿の枚数を入念に確認をしながら並べる音がして、ゲスト人数と皿の数を確認をする大声も聞こえます。ピリピリとした空気を感じます。
コックコートでなく、私服でキッチンのこんなに奥まで入り込んで調理風景を見るのは初めてなので、妙に緊張しました。
シェフたちの人数に驚き
少し慣れてキッチンを見渡すと、正直笑ってしまいそうになりました。
用意する料理の量に対してシェフの人数が多過ぎです。
30名ほどのシェフが、数名の仕切り役のシェフの指示に従って動いていました。
よく料理人のことをシェフと呼ぶのだと勘違いをされている方もいますが、普通の料理人のことはコックと呼び(丁稚とかボウズともいう)、シェフと言うのはお店のキッチンの総責任者のことです。
昔風で言うと親方のことで、自分の店では一番偉く指示を出す人のことなのです。そんな一国一城の主であるシェフたち、あるいはそれに準ずるセカンドシェフたちが30名以上キッチンでひしめき合いながら、他のシェフが書いたメニューの料理を共同で仕上げています。こんな光景はめったに見られる事ではありません。なかなかの壮観でした。
実は私も10数年前同じようなイベントに呼ばれて裏方働きをしたことがありましたが、その時は今日の半分くらいのシェフの人数だったと思います。
その時のゲストシェフも今回と同じ落合務シェフで、私はパスタのボロニア風ミートソースの調理担当をして、落合シェフに「旨いよ」と言われてとても嬉しかった覚えがあります。
イタリアンのシェフはコック帽を被らないのはなぜ
今回ホテルのキッチンが現場でしたので、はっきりと見て取れ、私が面白く感じたのは、ホテルの料理人(あるいはフレンチの料理人)は高さのあるコック帽を被り、イタリアンのシェフたちは無帽だった事です。
誰一人コック帽を被っていたイタリアンシェフは居ませんでした。また髭を伸ばしているシェフもけっこう居ます。
これに関しては、私自身が料理人時代にも批判的な意見をよく聞きました。髭に関しても同様です。衛生面を考えて注意・ご指摘される方の真意はよく理解できます。
でもこう言っては身も蓋も無いかも知れませんが、本場イタリアの料理人もコック帽を被る人はほとんど居ません。私は2度イタリアに研修に行きましたが、一度も見たことがありませんでした。
衛生感覚に欠けるというよりも、単に帽子を被る習慣がないのではないでしょうか。
でも、イタリアンの料理人の名誉を守るために言っておきますが、髪型のセットなどは、落毛を防ぐため、無香料のジェルやムースで固めるなど、帽子を被らない方が入念に手入れや注意を払っています。
髭に関しても伸ばす手入れに比べると、毎日剃る方がよほど楽なのです。そういう努力と対策を行っているということを知っていただいても、どうしてもダメだわ、と言う方は残念ながら美味しいパスタ料理は諦めてください
美味しそうなお皿が並ぶデシャップ
さて肝心の料理の話ですが、残念ながら私は食べていませんから味は分かりません。
メニューを見ながら、私がわかる範囲で簡単に説明をしましょう。
ただし、メニューから見立てた私の予想ですので、「全然違う!」と後ほどシェフや協会からクレームが入るかも知れませんがあしからず。まぁ私も長くやっていましたから、そんなに大間違いはしていないと思いますが。
ACCI Gusto 京都 ~イタリアンの調べ~ MENU
イブファームのイノブタと栗を詰めたパプリカ アグレストソース
説明:イブファームとは和歌山にある養豚場(イノブタを育てています)です。
イノブタをじっくり煮込んでほぐし、栗のロースト、リコッタと和えたものを、黄色のパプリカに詰め込み、ブドウとクルミで作ったソースで提供されました。
甘鯛のポルチーニ茸と九条ネギのスフォルマ―ト
説明:スフォルマ―トというのは型に詰めて焼いた料理です。分かりやすく言うとグラタンですね。甘鯛のうろこを引いて、焼きほぐし、イタリアン松茸と呼ばれるポルチーニ茸、九条ネギと和えたものを型に詰め、卵とクリームを合わせたアパレイユを流し入れてオーブンで焼いた料理です。甘鯛のうろこは独特の風味があり旨いので、カリカリに焼いた(揚げた?)モノをトッピングしていました。
ウニのスパゲッティ
説明:これは説明なしでも分りますね。当然最高級のウニをたっぷり使っていたでしょう。濃厚なウニの味を楽しむためのパスタ料理です。
うずらのアニョロッティ ダルプリン 黒にんにくとマッシュルームのピュレ
説明:アニョロッティとはでっぷりとした餃子のような形をした詰め物パスタです。中に詰めるのは肉類が基本で、牛や豚や兎などいろんなバリエーションもあります。今回はうずらをローストしてほぐしたものを包丁で叩いて詰め物の具材に使ったとシェフの説明がありました。アニョロッティは茹で上がりにバターとパルミジャーノレジャーノで和え、お皿には黒にんにくとジャガイモだけで作ったピュレをソースとして敷いてありました。
アクアパッツア
説明:ナポリの郷土料理で、魚を水で煮ただけの非常にシンプルな料理。アサリ・ドライトマト・ケッパー・オリーブなども入れ複雑な味わいを引き出します。日高シェフが初めて日本に紹介したと言われる彼の代表的料理。今回も日高シェフが担当。
ヴィテローネ キアニーナ(IGP) アッロスト サルサ ディ カスターニャ
説明:ヴィテロ―ネ・キアニーナとは全身が真っ白で世界一大きな牛といわれるキアーナ牛の仔牛のことです。特に仔牛は高級食材として重宝されています。やわらかくジューシーに蒸し焼きにして、栗のソースは客席でシェフたちが直接お皿にかける演出で提供されました。
豆乳クリームを使ったクレームアンジュ、柿を使った季節菓子
説明:クレームアンジュとは通常はチーズのムースケーキなのですが、今日は豆乳でアレンジされていました。添えられた細工物は全て和菓子の手法で作られた手の込んだもので、見た目にも驚きの声があがりました。
イタリア料理教室
晩餐会の始まる前、お昼の時間はメインシェフのお二人の料理教室もありました。それぞれ二品ずつ担当され、通常お店でも出されることもある料理を、家庭でも出来る材料と調理方法でとても分かりやすく手軽に出来そうに教えてくださいました。
◆笹島保弘(イルギオットーネ)
〇帆立貝といろんなキノコの温かいサラダ バルサミコ酢ソース
〇豚肉とかぶらの簡単リゾット、京七味風味
◆落合 務(ラ・ベットラ・ダ・オチアイ)2品
〇鶏もも肉の大根おろし煮込み
〇マスカルポーネのムース
次はフォーマルなスーツで来る?それともコックコートで参加?
こんなオールスターイベントはぜひ定期的にやって欲しいと思います。その時はお客としてダイニングテーブルに座りたい気持ちと、コックコートを着てキッチンメンバーとして参加したいという二つの気持ちで揺れ動いています。
今回のような高級イベントはこれからの日本の景気回復の糸口として、食に対する消費者の興味を高めるとても意義のあることとなったでしょう。
ただ、私個人の意見としましては、より多くの人にアピール出来る、もう少しリーズナブルなイベントも取り混ぜて行い、相乗効果を期待したいと思います。
参加されたシェフのみなさまとお店の紹介 (順不同・敬称略)
落合務(ラ・ベットラ)銀座・池袋・名古屋市千種区
齊藤実(和歌山マリーナシティホテル)和歌山市
原宏冶(アルポンテ)日本橋
濵﨑龍一(リストランテ濵﨑)青山
日高良実・直井一寛(アクアパッツァ)南青山
鈴木弥平・木下幸助(ピアットスズキ)麻布十番
岡村光晃(トラットリア・ケ・パッキア)麻布十番
仁保州博(ヴィノヒラタ)麻布十番
佐藤真一(クリマ・ディ・トスカーナ)本郷
河上正美(タントタント)京都市
那須昇(カーサビアンカ)京都市
笹島保弘・下司真也(イル・ギオットーネ)京都市・丸の内・大阪
和田康則(イル・フィーロ)京都市
倉持智和(クチーナ・クラモチ)京都市
赤坂崇志(タベルナ・ピノッキオ)京都市
渡辺武将・八島匠志(カ・デル・ヴィアーレ)京都市
市山技(アルポルトカフェ)日本橋高島屋・京都高島屋
吉村雅博(コロンボ)京都市
那須崇之(アル・ソニャトーレ)京都市
渕上兼督(ダ・フチガミ)福岡市博多
野口篤(ロカンダ・ミーア)名古屋市中区
赤松健二(ピノロッソ)島根県津和野
的場篤志(イル・デジデリオ・オルタッジョ)大阪市
八島淳次(料理人でありソムリエ・イタリアワインの第一人者)
小西達也(開店準備中)
※他にも数名のヘルプ料理人の方々がいらっしゃいました。
私の認識不足で表記されていない方もいらっしゃいます。申し訳ありません。
ASSOCIAZIONE CUOCHI CUCINA ITALIANA
日本イタリア料理協会 事務局
〒150-0002
東京都渋谷区渋谷2-4-7 YK青山2F
(株)メディアフレックス内
Tel: 03-6427-6883 / Fax: 03-3407-4991
注1デシャップ台:料理の最終仕上げをする作業台やテーブル、または仕上がった料理の各テーブルへの振り分けを行うポジションのことで、実際の営業では最も重要なところ。ここが滞ると調理も料理出しも、全部が止まってしまう。